2014年9月30日火曜日

故郷の優しい景色を思い出す-『眉山』


年を重ねるについて、故郷の良さを感じるようになってきました。若いころは帰省してもすることがないため居心地が悪く、東京に戻り、高層ビル群を見て、落ち着きを感じていたものでした。それがいつからか、故郷の風景が疲れた心を癒してくれるようになりました。

この本で描かれているのは徳島で、その田舎の景色と人間模様がとても優しく描かれています。

主人公の咲子は父を知らず、咲子の母”神田のお瀧”は、家庭のある男性を愛し、その子を女手一つで育て、最後まで毅然と生きてきました。ガンを患いながらも、その痛みを見せず気丈に振舞う姿は、3年前に他界した母のことを思い出させてくれました。咲子は母が献体を申し込んでいたことにショックを受けながらも、母の人生を知り、自分の父親の存在を知る過程で、母の想いを理解していきます。

この本を読みながら、母のことを思い出し、母がこの世を去る前に、十分に親孝行ができなかったことを今更ながら悔やみました。人はそれぞれいろんなものを抱えながら生きているのであり、それでも毅然として生きていくことが大切だと感じさせてくれる話でした。


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2014年9月29日月曜日

大衆化社会に警鐘を鳴らす-『ゲーテの警告 日本を滅ぼす「B層」の正体』


小泉総理による郵政選挙や民主党による事業仕分けなどは劇場型政治の典型的な例ですが、今振り返るとあの熱狂は何だったのだろうと思います。郵政民営化ってそこまでやるほど重要なことなのか、民主党のマニュフェストには財源の裏付けのないじゃないか、そんなことを言ってみても、連日のマスコミの報道とそれに煽動された国民の声の大きさの前では無力でした。この国がどんどんおかしくなっていくことに危機感を覚えながらも、逆にとことん悪くなればさすがにどこかでおかしさに気付くだろうと一縷の望みを持っていたところ、安倍政権が誕生してくれたことに安堵しました。

今の選挙は小選挙区制の下、いわゆるB層に対して以下に働きかけるかというある種のマーケティング戦略が重視されています。とにかく一番にならないと選挙に当選しないわけですから、難しい問題をまじめに議論するよりも、問題を単純化し、有権者の感情に訴えかけることがより重要となりますし、さらに言えば、主張している内容より、誰が言っているかの方が重要だったりします。本書ではB層とはマスコミの報道に流されやすい「比較的IQの低い人たち」とされていますが、このB層の拡大によって政治はもとより、芸術や料理などの分野でも「本物」が駆逐され、大衆化が進んでいることに警鐘を鳴らしています。

テレビではコメンテーターと称してその道のプロではなく芸能人がもっともらしくコメントしたり、内容に関係なくテレビや雑誌で取り上げられた店が名店になったり、書店には時流に乗ったテーマの本が氾濫していたりと、プロの価値が低下し、本物のわかる人が減っています。そうなると本物が育たない社会になってしまいます。

現在は民主主義が最良の政治形態だとされていますが、チャーチルの皮肉を引用するまでもなく、B層が支配する大衆社会が最良とは言えないでしょう。選挙の度にブームが起きるようでは、長期的な国家ビジョンを持つことができず、大衆迎合的な政策を乱発することになりかねません。民意が常に正しいとは限りません。しかし民主主義は民意が正しいという擬制の上に成り立っています。最も民主的な政治体制だったと言われるワイマール体制の下で、ナチスが政権の座に就いた訳ですから、ひとたび熱狂が生まれれば、民意が暴走することだってあるわけです。そう考えると健全なエリートの養成についてもっと考えるべきではないかと思います。例えば政治家は官僚を叩き、疎外することで政治主導のパフォーマンスをするのではなく、官僚に国家のエリートとしていかに国のために働いてもらうかという視点で考えていくべきではないでしょうか。

この本を読みながら、偉そうなことを言ってみても自分自身がだんだんB層になっているのではないかという危機感を持ちました。楽な方に流されず、古典を読み、自分の頭で考える習慣を改めて身に付けていきたいですね。


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2014年9月28日日曜日

自分らしくあるために-『孤独であるためのレッスン』



一般的に「孤独」という言葉にはネガティブなイメージがありますが、本書は「孤独」を肯定的に捉え、むしろ積極的な意義を認めています。本書の冒頭で著者は「孤独」について次のように宣言しています。

孤独は、決して避けるべき否定的なものなどではない。
孤独は、現代をタフに、しなやかに、クリエイティブに生きていくために不可欠の”積極的な能力”である。
 今はスマホなどで絶えず誰かと繋がっていないと不安になる若者がいて、一緒にランチのできる仲間がいないとストレスになり会社に行けなくなるOLがいたりするといいます。本書は、孤独になることに不安を抱きながらも、無理な人間関係の煩わしさに心を擦り減らしている人々に対して、孤独を肯定的に捉え、本来の自分を取り戻すきかっけを与えてくれるでしょう。

一般的には、ひきこもりやフリーター、パラサイトシングルなど、ひとりでいる人々に対して、社会性に問題があるという見られ方をされ、世間から冷たい視線を向けられます。学校教育の現場では子供の社会性、協調性を求めるあまり、かえって子供達を追い込むことになっているといいます。画一的な社会性よりも個性を認める社会になれば、ひとりでいる人々が追い詰められることなく、自分を肯定的に受け入れることができ、社会生活を自然に送れることができるのではないでしょうか。

社会の中で生活していくためには、嫌な人間関係にもある程度柔軟に対処していく必要がありますが、一方で、周囲に対してうまく適応してばかりいると、自分自身を見失い、訳がわからなくなってしまうことがあります。こうして僕がブログを始めようと思ったのも、日常生活に埋没せず、仕事から離れて自分自身をしっかり見つめたいという動機からです。

本書では「肯定的な孤独」となるために必要な「八つの条件」を紹介しています。詳細は割愛しますが、いずれもこれまでの自分を追い詰めていた先入観から自己を解放し、人生について新たな視点を提示するものです。さらに本書は「真の孤独」について、次のように語っています。

真の孤独とは、(中略)「人はみな、ひとりで生まれ、ひとりで死んでいく」という絶対的な真実をしっかりと踏まえ、自分の人生の道を歩んでいくことなのです。
 環境に適応しようとするあまり、自分自身を喪失し、自分自身を喪失しているから人と繋がっていないと不安になるという悪循環に陥ってしまいがちです。絶えず人と繋がっていたい、傷つくのが怖いという感情が、恋愛の場面では「多重恋愛」か「共依存恋愛」かの両極端に現れるといいます。そこで自己を回復するために、あえて一定期間、人間関係を遮断する時間を持つことが必要だというのです。

僕は本書の中で引用されていた、「自分の一日の三分の二を自分のためにもっていない者は奴隷である」というニーチェの言葉に衝撃を受けました。このままずっと働いて、その先に何があるのかという漠然とした不安を抱き、どうすれば経済的自由を得ることができるかについて最近考え始めていた僕の心に、ストレートに突き刺さる言葉でした。生活のために仕方がないが、では自分の人生とは何なのか、すぐに答えが出る問題ではありませんが、自分らしくあるために孤独を恐れない気持ちを大切にしたいと思いました。


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豪快なアニキが元気を与えてくれる-『大富豪アニキの教え』



人間のメンタルというものは良くわからないもので、なんとなく気分が沈んでいて、何もやる気がしない軽いウツのような状態のときに、偶然この本を手にして読んでみたところ、一気に読破してしまい、その後気持ちが復活してきました。

ストーリーは、冴えないサラリーマンの若者がバリ島で成功した日本人「アニキ」を訪ね、そこで数日滞在しては日本に帰国してアニキから学んだことを実践していくということを何度も繰り返すことで成長していくというもので、アニキの教えとして書かれている内容は、他の自己啓発本にもよく出てくるもので、特に目新しさはありません。

それでもこの本が他の自己啓発本と違ったのが、描かれている「アニキ」のキャラクターが豪快すぎて、アニキの繰り出すコテコテの関西弁に妙に親しみを感じさせるものだったところです。心が疲れているときには、あまり難しい本も、重い内容の本も読めませんので、ユーモアのあるこの本は、そんなときに自然と元気を与えてくれるものでした。

人生を切り拓いていくためには、まずとにかく行動すること、それから短期的な利益を求めず、人の役に立つことでいずれそれが自分に帰ってくることを信じるのが大切だと、この本は改めて感じさせてくれました。


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2014年9月27日土曜日

哲学をざっくり理解する-『問題解決のための哲学思考レッスン25』



巷には難しいことをざっくりと簡単に解説した解説本が溢れています。中には古典的名著をマンガにしているものもたくさんあります。ネット上に情報の断片が溢れ、簡単にアクセスができるようになると、難しい本をじっくり読むことができなくなり、「要するにどういうこと?」と結論を急ぎ、こうした簡単な解説本やWikiに頼るようになります。

そういう意味では本書も哲学思想の簡単な解説本の一つではあります。哲学の分野においても、人類の歴史の中で膨大な知の蓄積があり、それらをすべて理解することは一生かけても難しいでしょう。だからこそ、簡単な解説本で歴史や全体像を把握し、その中で自分がどこから手を付けていくべきかを知ることが求められます。

本書の特徴はタイトルにもあるように、哲学の世界から25の概念を取り出し、目の前にある現実の問題に対してそれらの概念をどのように活用できるかという視点を重視しているところになります。ともすると、哲学の概念は抽象的過ぎて現実から遊離したもののように思いがちですが、本書では概念のエッセンスを解説した上で、「どうすれば、ゴミを減らせるか?」といった身近な問題や、「どうすれば、戦争をやめられるか?」といった人類全体のかかわる問題、あるいは「どうすれば、ネガティブな自分が変わるか?」といった個人の生き方の問題などに対するアプローチの方法を解説しています。

現実の題と関連付けながら哲学の概念を解説しているので、具体的なイメージがつかみやすく、これまで、哲学に対して漠然とした興味を持ちながらも岩波文庫の哲学書に何度も挑戦しては挫折してきた僕にとっては、とても良い本でした。一方、あまりにもお手軽すぎるので、これだけでわかった気になってはいけないとも思っています。エッセンスを抽出する上で、相当多くの要素が切り捨てられてしまっていることでしょう。だからこそ、哲学への取っ掛かりとして本書を読み、興味を持った哲学者の思想についてはよりレベルの高い本へ挑戦していきたいと思います。

それにしても、最近難しい大著を読みこなすだけの思考の持久力と忍耐力が低下していることを痛感しています。



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2014年9月25日木曜日

軍事を知らずして国家を語ることなかれ-『田母神戦争大学』



田母神俊雄氏は本日、衆議院議員の西村眞吾氏とともに太陽の党の再発足を宣言しました。田母神氏は、今年2月に行われた東京都知事選では、組織票がない中、ネットを中心の保守層の支持を集め、61万票を獲得したことは記憶に新しいところですが、いよいよ国政進出に向けて、具体的な一歩を踏み出しました。

さらに本日、田母神氏の50冊目の著書となる本書の出版記念パーティーが開催されました。出版記念パーティーという名目ですが、先行して太陽の党再発足の記者会見を終えていたこともあり、パーティーはさながら太陽の党の決起集会の様相でした。同じく本格的な保守政党である次世代の党とは緊密に連携を取りつつも、独自の活動をしていくということで、今後の活躍が期待されます。

本書は、田母神氏とかつての部下であり、現在も秘書官として田母神氏を支えてきた元空将補の石井義哲氏との共著で、防衛問題を中心に、両者の対談形式でわかりやすく、時には軍事に関する専門知識を織り交ぜながら解説されています。耳学問だけの専門家ではなく、航空自衛隊の要職にあった両者の対談ということで、大変説得力があります。田母神氏を批判する人々はあたかも田母神氏が好戦的であるかのように言っていますが、田母神氏の主張は、軍備を整えることで戦争を抑止できるという、国際社会の現実を前提としたきわめて真っ当なものだと思います。

防衛問題に関する誤った議論やその根底にある誤った歴史認識、そして安倍政権が目指そうとしているものについて理解する上で、本書はとても有益だと思います。


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2014年9月23日火曜日

アベノミクスを斬る-『期待バブルの崩壊 かりそめの経済効果が剥落するとき』



アベノミクスをどう評価するかは意見が分かれるところです。異次元の金融緩和で円安・株高となり、さらに金融緩和の影響は不動産価格にも影響が出ています。その結果、資産家にとってはこれまでのところ非常に良い結果をもたらしています。一方、今年4月からの消費税増税の結果、消費が大きく落ち込み、現在回復の途上にあるか否かについては専門家の見方も分かれています。消費税増税に加えて、円安による輸入物価の上昇が消費に対してマイナスの影響を与えているとも考えられます。

かつて日本は輸出大国であり、円安になれば貿易収支、経常収支の黒字が拡大し、GDP成長率を押し上げることになりましたが、現在は慢性的な貿易赤字であり、円安になれば貿易赤字の拡大し、GDP成長率にはマイナスに働きます。

さらに雇用への影響についても、かつては円安になれば国内生産が増え、それが雇用の増加、賃金の上昇に繋がっていましたが、多くの企業は拠点を海外に移してしまい、円安になっても国内生産が増えるわけではなく、雇用の改善には繋がりません。つまり、円安で企業業績が上がったとしても、それが輸入の増加ではなく、海外での利益が円ベースで増えていることによるもので、それ自体は国内の雇用環境の改善にあまり寄与しないと考えられます。

一部の大企業でパフォーマンスのように「ベア合戦」をしていましたが、全体で見れば物価上昇に見合うだけの賃上げはできていないのではないでしょうか。人手不足による人件費の高騰も話題にはなっていますが、それは一部の技術者やこれまで3Kと言われて敬遠されていたような職種が中心であり、一般のサラリーマンの給料が大きく増えたという話はあまり聞きません。そう考えると、アベノミスクがもたらすものは、格差の拡大ではないかと思います。

本書の著者である野口悠紀雄氏は当初から一貫してアベノミクスに対して批判的な論陣を張っていました。本書はデータは概ね2013年のものでありやや古いですが、実際の経済指標に基づき、アベノミクスの下で日本経済に起こっていることを明らかにしています。グラフの解釈について、持論をサポートするためにやや強引に解釈していると感ずる部分もありますので批判的に読む必要はありますが、統計資料が豊富に掲載されていますので自分で検証することもできるでしょう。アベノミクスの負の側面を考える上で、多くのヒントを与えてくれる本だと思います。


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GHQによる占領政策の裏側を知る-『GHQ知られざる諜報戦-新版 ウィロビー回顧録』



GHQによる日本の占領政策はアメリカによる数ある占領政策の中で、最も(あるいは唯一)成功した事例ではないかと思います。本書は、そのGHQの中枢にいたG2のC.A.ウィロビーによる回顧録である。ウィロビーの立場上、マッカーサーに対して好意的な評価をしている点はやむをえないと思いますが、GHQ内部から見た日本の占領政策や、GHQ内部で起こっていた権力闘争の様子がわかる点では、とても参考になると思います。

特に興味深かった点は、GHQ内部でG2による思想調査が行われていたことです。もともとGHQの初期の対日占領政策は民主化の名の下に、日本を軍事的のみならず精神的にも経済的にも解体するもので、GHQ内部でも批判がありました。その民主化を主導していたのが民生局(GS)と経済科学局(ESS)でしたが、G2の内部調査によって、それらのスタッフの中には共産主義者が数多く潜入していたことがわかっています。

また、朝鮮戦争に関しては、G2は諜報活動により危機を察知し、朝鮮戦争勃発前からワシントンに対して警告を発し続けていたにもかかわらず、ワシントンはこれらを無視したと語っている。その上で共産軍の攻撃を「不意打ち」であると主張したといいます。アメリカ内部での縄狩り争いが事態の悪化を招いたことがよくわかります。

戦後の日本を理解する上では、終戦直後の極端な民主化と逆コース、朝鮮戦争による特需と再軍備といった一連の占領期の時代背景を理解しておく必要があると思います。教育やメディアの左傾化は民主化の影響と言えますし、それでも西側陣営の中で世界第2位の経済大国となりえたのは逆コースによる政策の転換と朝鮮戦争がきっかけと言えます。さらに憲法9条と自衛隊や集団的自衛権の関係についても、アメリカの方針転換をそのまま受け入れたために矛盾だらけとなっています。現在の日本の源流は占領期にあると言えますので、あるべき国家像を論じる上で、こうした戦後史を学ぶことが大切だと思います。


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2014年9月21日日曜日

大企業が沈没していく中での人間ドラマ-『会社が消えた日 三洋電機10万人のそれから』



三洋電機は一部の事業部は切り売りされ、パナソニックに吸収された本体も、SANYOブランドが消滅したことで、跡形もなくなってしまいました。本書は三洋電機の末期、すわなち創業家の井植敏氏とその長男の敏雅社長、そして敏氏に引っ張られて会長に就任したジャーナリストの野中ともよ氏という創業家サイドと、増資を引き受けたメインバンクの三井住友銀行とゴールドマンサックス、大和SMBCという金融機関サイドとの攻防という経営側の視点と、同時期の現場での反応や思いを交差させながら描いています。

2000年代はじめには、三洋電機はソニー、シャープと並んで日本の電機メーカーの勝ち組として3Sと称されていた。その当時、井植敏氏は「ナニワのジャック・ウェルチ」とまで言われていました。その時代の三洋電機は、自社ブランドという点では他の日本メーカーに比べると一段落ちる扱いではありましたが、デジカメはOEMを含めた生産台数は世界一でだったり、アメリカでのテレビの販売台数が一位であったり、携帯電話もドコモに参入できなかった分、auでは先進的なモデルと常に提供し、一定の存在感を示したりしていました。その他、電池や産業用の空調、冷蔵庫などでも高い評価を受けていました。当時売上高は2兆円を超え、従業員は世界で10万人にもなっていました。

同じく3Sと称されていたシャープは液晶パネルで飛躍的な成長を遂げたものの、その後過大投資が重荷となり、一時は経営危機が囁かれ、現在はようやく持ち直している状況です。また、ソニーはPC部門の売却などリストラを進めているが、つい先日も決算予想の下方修正を発表し、赤字を拡大させ、業績回復の見込みが立っていない状況です。

三洋電機の消滅からどのような教訓を得ることができるでしょうか?

戦略的失敗は現場での努力で挽回することはできないということでしょうか。あるいは、家族主義的経営がぬるま湯体質となり、問題の先送りの温床となったということでしょうか。見方を変えれば、短期的利益を追求する金融機関によって、三洋電機が解体されてしまったと言えなくもないでしょう。どの視点からこの問題を考えるかによって、得られる教訓は異なってくると思います。僕が最も気になったのは、日本の電機メーカーが苦境に陥る中、技術者の受け皿が日本国内に十分にないと、技術者とともに技術が海外にどんどん流出してしまうという問題です。本書で取り上げられれていましたが、三洋の車載電池の第一人者がパナソニックの方針に嫌気が差して退職したが、おそらくサムソンに転職したのではないかという話でした。電機メーカーが苦境に陥ることは、もはや一企業だけの問題ではなく、国家的損失にもなりかねない問題だと感じました。


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資本主義社会の将来を考える-『資本主義の終焉と歴史の危機』



日本はバブル経済の崩壊後、長引くデフレ経済の下で、歴史的な低金利が続いてきました。しかし、現在は日本に限らず、アメリカでもEUでも同じく歴史的な低金利が続いています。資本主義の本質は資本を投資して利潤を得ることであると考えれば、もはや資本にとって割の合わない時代になっていると言えます。

本書によれば、かつて16世紀のヨーロッパで歴史的な低金利が続いていました。これを克服するために西欧諸国は海に出て行き、植民地というフロンティアを開拓したと言います。現在では、そのフロンティアが新興国や発展途上国ということになりますが、これらの国々の成長率は高く、いずれ先進国との格差が縮まって行くことでしょう。また、低金利時代の資本が利潤を得るためにレバレッジをかけたハイリスクの投資を行い、これがバブルの発生を崩壊を生み出していると言えます。こうしてフロンティアがなくなると資本主義は行き詰まり、終焉を迎えるというのが本書の分析です。

資本主義が終焉を迎えつつある中、本書では「脱成長」、すなわち定常化社会、ゼロ成長社会を目指して行くべきだと指摘しています。定常化社会の中では、純投資が行われず、減価償却の範囲の中でのみ設備投資が行われ、人口も9000万人程度で横ばいとなり、生産と消費が安定的に循環していくことになります。ただし、定常化社会へ移行する際のリスクとして、財政問題と資源価格が挙げられています。

デフレや低金利が一時的なものなのか、世界的なパラダイムシフトが起こっているのかは、将来振り返ってみないと判断できないことでありますが、現状認識に関しては漠然と感じていた不安を鋭く指摘されたように感じました。一方、その処方箋として「脱成長」を目指せという主張は、飛躍があり、違和感を覚えました。資本主義の本質は格差であり、その格差が利潤の源泉となります。本書が唱えるような定常化社会は、かつての社会主義のようなユートピア思想に過ぎないようにも思えます。このあたりの価値判断は分かれるところだと思いますが、本書は資本主義社会の本質を大局的に捉える上で、有益な本だと思います。


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資本主義社会の本質を知る-『いま生きる「資本論」』



かつては日本でも思想界の中心にあった『資本論』ですが、1991年のソ連崩壊後、完全に過去のものとなったと思っていました。かと言って、マルクス主義を批判する人の多くは(僕も含めて)、資本論を読破し、理解していないのではないでしょうか。

著者の佐藤優氏は、本書のまえがきで、資本論を危機の時代を読み解き、その解決策を見出すためにとても役立つ古典の一つであり、社会主義国の現実と切り離して「論理の書」として読むことを薦めている。すなわち、日本社会は閉塞感を強めており、アベノミクスで一部では景気が良くなったように言われていますが、それが一般の人々の賃金にどのように反映されているのか、といった資本主義社会における現象を理解するためのフレームワークとして『資本論』は依然として有効な書であるということです。

本書は、著者による6回にわたる講義をまとめたものであり、資本論のポイントについて、とても読みやすくまとめられています。資本論の膨大な量の前に挫折した経験からすると、こうした本を事前に読んでおけば、資本論そのものも理解しやすかったのかもしれないと思います。一方で、読みやすいからといって、本書で資本論のポイントが本当に理解できたと言えるかというと、必ずしもそうではないのかもしれません。なぜなら、簡単に解説するためには、主観的解釈を経て論理を単純化している面があるため、その解説そのものが正しいとは限らないからです。とは言っても現時点で僕に本書を批判的に読めるだけの知見はありませんが。ただ、解説本を読む場合には気を付けておきたい点ですし、やはり解説本で終わらせず、いずれ資本論に挑戦したいと思います。


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2014年9月17日水曜日

長期投資のバイブル-『ピーター・リンチの株で勝つ』


株式投資には様々なスタイルがあります。僕はデイトレードのような超短期よりは中長期のスパンで、テクニカルよりはファンダメンタルズ重視のスタイルです。ファンダメンタルズ重視の長期投資と言えば、まず頭に浮かぶのがウォーレン・バフェットですが、バフェットの投資スタイルを解説した書籍はあまたありますが、自身による体系的な投資理論の書籍はありません。

一方、本書の著者であるピーター・リンチはマゼラン・ファンドのファンドマネージャーとして輝かしい実績をあげた伝説のファンドマネージャーです。

中長期的なスパンで投資をしていると、日々の株価を見て、ときには自分の投資判断が正しかったのか不安になることがあります。マーケットの動きを全く無視して自分の投資判断に固執するのは危険ですが、一方でマーケットの動きに振り回されて感情的になると、誤った投資判断をしてしまう危険性があります。そうしたときに冷静さを取り戻させてくれるのが本書です。

本書では繰り返し、短期的な市場の予測や経済の予測がいかに無意味であるかを強調しています。さらに、「買った株が上がったというだけで、あなたが正しいということにはならない」「買った株が下がったからというだけで、あなたが間違っていたということにもならない」とも言っています。

本書を読んで学んだことは、株式投資において、事前にしっかり調査し、理解した銘柄について、成功のストーリーを組み立て、そのストーリーがまだ生きているかどうかを定期的にチェックすることが重要であり、株が本書の提示する6つのカテゴリーのどれに属するのかを調べることがストーリーを考える上で有益であるということです。また、本書では超人気業種の超人気会社、異常に高いPERを避けるべきと言っています。したがって、短期的な利益を狙って超人気銘柄に果敢にトライするスタイルの投資家には無意味な本かもしれません。


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2014年9月15日月曜日

忙しい合間に世界史を学び直す-『仕事に効く教養としての「世界史」』

高校時代には世界史を学んだつもりですし、センター試験でも世界史を選択したにもかかわらず、高校時代に覚えたことはほとんど忘却の彼方に消えてしまいました。

暗記中心の歴史教育の弊害と言ってしまえばそれまでですが、そもそも、学校教育の中で、日本史と世界史がそれぞれ独立した科目であり、世界史の中で日本を意識することがほとんどないというのも問題だと思います。本来、日本史を理解する上で、同時代の世界の情勢は無視しえないものですし、日本人が世界史を学ぶ目的は、日本が直面する国際関係の背景を理解することではないかと思います。

本書は日本と世界との関係を意識しながら、限られた紙面の中で、枝葉末節に囚われず、現在の国際情勢を理解する上で最低限必要な世界史を概説したものとして、大変優れていると思います。忙しいビジネスパーソンが軽く読んで理解するのに適した本だと思います。

ただ、解説の端々に著者の独自の見解が多く盛り込まれている印象を受けますので、取り扱いに注意が必要です。例えば、キリスト教に関する記述で、当時新興宗教にすぎなかったキリスト教を広めるために、ミトラス教からミサを、イシス教から聖母マリア像をと、「いろいろな宗教から美味しいところをとってきた柔軟性が、キリスト教を大きく成長していった一つの要因だろうと思います。」と書いています。このように「~と思います。」といった著者の見解が散見されますので、歴史的事実と著者の主観を分けて読む必要があります。

そうした注意は必要であったとしても、本書のようにざっくり世界史の流れを理解できれば、現在世界で起こっている出来事をより深くできるのではないでしょうか?

さらに、学者ではなくビジネスパーソンである著者が、世界史についてこれだけの博識を持ち、大学でも講義をしているという事実に勇気付けられます。僕は学問的探求を諦めて、大学院より就職を選び、ごく普通のビジネスパーソンとしてこれまで20年近くを過ごしてきましたが、働きながらでも学問を究めることができるのだと考えれば、これまでくすぶっていた思いも晴れて、新たな目標ができました。

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現代思想を学ぶ手掛かりとして-『集中講義!日本の現代思想』

日常の雑事に埋没しがちな生活の中で、ふとこの世の中で何が起こっているのかを大局的に把握するためのフレームワークを身に付けたいと思い立ち、本棚に埋もれていた本書を引っ張り出してみました。

学生時代は経済学を学び、社会分析の一つのツールとして経済学も有効ではあると思いますが、より広範な視点から社会を理解したいと思い、哲学・思想について学ぼうと決意しました。

本書は、戦前のマルクス主義者による日本資本主義論争から始めて、戦後のマルクス主義の拡張、市民派・進歩派の登場、ポストモダンへと話は展開していきますが、前提となる知識が圧倒的に不足しているため、正直一読しただけでは消化不良でした。

それでも内外の膨大な知の蓄積の前に、どこから手をつけていけばよいのか見当もつかなかった僕にとって、一つの手掛かりにはなりそうです。

しばらくブログを休んでいましたが、これから無理のない範囲で感じたことや学んだことを記事にしていきたいと思います。

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