2014年9月23日火曜日

アベノミクスを斬る-『期待バブルの崩壊 かりそめの経済効果が剥落するとき』



アベノミクスをどう評価するかは意見が分かれるところです。異次元の金融緩和で円安・株高となり、さらに金融緩和の影響は不動産価格にも影響が出ています。その結果、資産家にとってはこれまでのところ非常に良い結果をもたらしています。一方、今年4月からの消費税増税の結果、消費が大きく落ち込み、現在回復の途上にあるか否かについては専門家の見方も分かれています。消費税増税に加えて、円安による輸入物価の上昇が消費に対してマイナスの影響を与えているとも考えられます。

かつて日本は輸出大国であり、円安になれば貿易収支、経常収支の黒字が拡大し、GDP成長率を押し上げることになりましたが、現在は慢性的な貿易赤字であり、円安になれば貿易赤字の拡大し、GDP成長率にはマイナスに働きます。

さらに雇用への影響についても、かつては円安になれば国内生産が増え、それが雇用の増加、賃金の上昇に繋がっていましたが、多くの企業は拠点を海外に移してしまい、円安になっても国内生産が増えるわけではなく、雇用の改善には繋がりません。つまり、円安で企業業績が上がったとしても、それが輸入の増加ではなく、海外での利益が円ベースで増えていることによるもので、それ自体は国内の雇用環境の改善にあまり寄与しないと考えられます。

一部の大企業でパフォーマンスのように「ベア合戦」をしていましたが、全体で見れば物価上昇に見合うだけの賃上げはできていないのではないでしょうか。人手不足による人件費の高騰も話題にはなっていますが、それは一部の技術者やこれまで3Kと言われて敬遠されていたような職種が中心であり、一般のサラリーマンの給料が大きく増えたという話はあまり聞きません。そう考えると、アベノミスクがもたらすものは、格差の拡大ではないかと思います。

本書の著者である野口悠紀雄氏は当初から一貫してアベノミクスに対して批判的な論陣を張っていました。本書はデータは概ね2013年のものでありやや古いですが、実際の経済指標に基づき、アベノミクスの下で日本経済に起こっていることを明らかにしています。グラフの解釈について、持論をサポートするためにやや強引に解釈していると感ずる部分もありますので批判的に読む必要はありますが、統計資料が豊富に掲載されていますので自分で検証することもできるでしょう。アベノミクスの負の側面を考える上で、多くのヒントを与えてくれる本だと思います。


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