吉川洋教授は、ケインジアンの立場から常に統計と理論に基づき、冷静かつ実直な議論を展開されています。時流に乗った刺激的な発言とは無縁の誠実な学者タイプであるため、玄人好みの経済学者ではないかと思います。
その吉川教授による『デフレーション』ですが、アベノミクスの柱である大胆な金融政策による2%インフレターゲットの是非を考える上で、是非読んでおくべき良書だと思います。
日銀の使命の一つは通貨の安定であり、これは伝統的にはインフレ退治を意味していました。それが今では日銀が自らインフレに誘導しようとしているわけですから、時代の変化とは恐ろしいものです。しかし、20年間にわたるデフレの本質に対して誤った理解をしていると、インフレが制御できずにバブルが発生したり、インフレによって不況を招くことになりかねません。
本書は、過去のデフレを巡る論争を振り返りつつ、現在主流派となっている貨幣数量説と価格決定メカニズムについて理論的に考察しています。そして結論として、次のように主張しています(以下要約)。
デフレの中で消費者の「低価格志向」がどんどん強まっていき、加えてグローバル経済における国際競争、円高の下、日本企業は一貫して「1円でも安く」コストダウンを図るべく「プロセス・イノベーションに専心してきた。その結果、日本経済の将来にとってより大きな役割を果たす「プロダクト・イノベーション」がおろそかになってしまったのではないだろうか。ではなぜ日本だけがデフレになったのか、という点については日本の賃金決定に生じた大きな変化を理由として挙げています。 すなわち、高度経済成長規に確立された旧来の雇用システムが崩壊し、本格的なリストラが行われる中、「雇用か、賃金か」という選択に直面した労働者は名目賃金の低下を受け入れた、というのです。
そのように考えると、いくら日銀が金融緩和を進めても、円安によるコスト上昇によるインフレや資産インフレは起っても、インフレ期待によるプラスの経済効果は期待できないという結論に達します。今は2020年の東京五輪開催決定による株高と将来の需要期待で、そうした悲観論は影を潜めてしまいましたが、何のためのインフレターゲットなのかは常に考え続けなければならないでしょう。
さらに、吉川教授は経済学のあり方について、とくに新古典派マクロ経済学を痛烈に批判しています。
ルーカス、サージェントらによる「合理的期待」モデルは、マクロ経済学に大きな影響を与えた。筆者の考えでは、それによりマクロ経済学は、現実の経済とは何のかかわりも持たない知的遊戯に変わってしまった。僕自身も大学で経済学を学び、大学院の講義にも出たりしていましたが、当時のトレンドが最適成長論による景気変動モデルの構築で、複雑な数学を駆使しながら、パラメーターを適当に動かして何となく現実の経済を説明しているかのように思える論文をたくさん読んでいくうちに虚しさを覚えた記憶があります。
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