北方領土、竹島、尖閣諸島と日本は領土問題を抱えています(正確には、尖閣諸島は日本が実効支配しているため領土問題ではありませんが)。でも、領土問題は日本に限ったものではなく、世界中で領土を巡って紛争が起きています。
この本は、元航空自衛隊で軍事ジャーナリストの鍛冶俊樹さんが書かれた本です。序章「軍事は国家に先立つ」では、国家を語る上で、まず軍事があってその後に国家が成立するという立場からスタートしています。
だが国家は戦乱の中から自然発生するのではない。明確な意思を持った指揮官が軍隊を率いて一定地域を征服し、そこに国家が成立するのである。
従って国家と軍隊の関係でいえば、まず軍隊があり、軍事制圧が完了した後に国家が出現し、統治が始まる。軍隊が一般的に国家の中で他の行政機関と違った位置付けになっているのはこのためである。国家より先に軍隊があるのだ。憲法改正の議論を見ていると、市民運動家のような人達が、軍隊を持つことがそのまま戦争をすることに直結するかのような主張をしています。でも、それは本当でしょうか?むしろ、パワーバランスを確保することで戦争にならないという方が歴史上は説得力があります。
この本では世界各地の領土問題とその背景としての歴史について、数多くの地図を掲載しながら解説しています。その中でいくつか興味を持った記述がありました。例えばインドについて、こんな記述があります。
日本では戦後、インドが大人気だった。(中略)日本人には外国をむやみに理想化する性癖があるし、そもそもインドが親日的だという要因もあるが、それ以上に戦後の日本世論に作用したのは、ガンジーの非暴力主義とネルーが掲げた外交姿勢としての非同盟主義である。インド独立後はパキスタンやバングラデシュとの戦争を繰り返し、現在では立派な核保有国です。日本の理想とした非武装中立の平和主義は幻想に過ぎませんでした。
また、ヨーロッパについてこんな記述があります。
『西洋の没落』は1918年にドイツの哲学者オスヴァルト・シュペングラーが著した書である。その名の通り西洋文明はやがて滅びると予言し、その時期を21世紀初頭に設定している。欧州危機はいまだ出口が見えず、欧州は解体するのではないかとの憶測も飛び交う現在から見ると、不気味な予言であろう。
シュペングラーの精緻な論考を私的に要約するなら、宗教的信仰心が失われ、科学が技術に取って代わられ、文化が経済に取って代わられ、哲学が情報に取って代わられるとき、文明は滅亡するのである。ちょっとドキッとする予言ですが、これはヨーロッパだけではなく、現在の日本にも当てはまるかもしれません。
最後に日本の領土問題に対する姿勢について、このように警鐘を鳴らしています。
(北方領土問題について)「日本が奪われた領土を諦めれば、波風立たずに平和に収まる」などというのは、かえって戦争を誘発しかねない危険な考えなのである。このことは、日本にとってのもう一つの領土問題である竹島問題にも当てはまる。将来在日米軍が縮小、撤退したとき、北方領土にロシアがいれば北海道は危機に晒され、竹島に韓国がいれば対馬の実効支配も時間の問題となってしまうというのです。
このほかにも東アジア情勢として、中国や北朝鮮で起っていること、パレスチナ問題やロシア、アメリカの戦略など、面白い話はたくさんあります。領土問題、さらには世界情勢を理解するためにはその歴史的背景を学んでおかなければいけないと考えさせられた本でした。
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