「節税」はもともと認められている特例や経理処理の方法を使うことなので、適用要件さえ誤らなければ問題になることはないでしょう。「脱税」は所得をごまかすためにウソをつくことなので犯罪になってしまいます。だから、これはやめましょう。それでは「租税回避」というのはどういうものかを簡単に説明します。
「租税回避」とは、学問的な定義はともかく、感覚的には、対象となる取引や経理処理の方法自体は合法的であっても、税金を不当に減らす目的以外に経済的合理性がない取引のことを指します。
例えば、法人が含み損を持っている土地を100%子会社に売っても、グループ法人税制が適用され、含み損は税務上繰り延べられることになるため、税務上は問題になりませんが、この土地を100%株主(個人)に売った場合は、グループ法人税制が適用されませんので、含み損が税務上実現することになります。土地を売った法人が黒字だった場合には税金を減らすことができます。
こうなると税務調査のときには、この土地売却の取引に合理性があったかどうかを調査官と争うことになります。売買契約書も取締役会議事録もあり、土地の鑑定評価を取っていれば、表面的には問題になりませんが、土地を買ったオーナー株主の買取資金が例えば土地を売った会社から貸し付けていた場合なんかは危ないかもしれません。調査官がこの取引を否認する法的根拠は「同族会社の行為計算の否認」ということになります。まあ、伝家の宝刀みたいなもので適用される例は少ないですが。
ここで挙げた例は単純なものですが、現実にはより複雑な手法を使って租税回避行為が行われているものと思います。取引そのものは合法的なものであれば、あとはどれだけ税金以外の点で経済合理性を説明できるかがミソになります。2011年2月に最高裁で判決が出た武富士事件では贈与税を巡る税務訴訟で元会長の長男が勝訴したことで話題になりましたが、その判決文の捕捉意見で次のような記述があります。
憲法30条は、国民は法律の定めるところによってのみ納税の義務を負うと規定し、同法84条は,課税の要件は法律に定められなければならないことを規定する。納税は国民に義務を課するものであるところからして、この租税法律主義の下で課税要件は明確なものでなければならず、これを規定する条文は厳格な解釈が要求されるのである。明確な根拠が認められないのに、安易に拡張解釈,類推解釈,権利濫用法理の適用などの特別の法解釈や特別の事実認定を行って、租税回避の否認をして課税することは許されないというべきである。
いいこと言っていますね。税務調査では時として安易な拡大解釈で否認しようとしてきますので、しっかり理論武装した上で、この判決文を根拠に戦っていく必要があります。
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