2013年8月23日金曜日

「競争と公平感」


この本は、日本人の資本主義及び競争と格差に対する感じ方の特徴に始まり、雇用、格差、貧困といった社会問題について、経済学的見地から分析し、問題の本質を明らかにしようとしています。

こうした社会問題に対しては、個別事例を強調した報道により、情緒的、感情的な議論が蔓延し、政治家も問題の本質に取り組まず、大衆迎合的かつ近視眼的な対応で世論の支持を集めようとしてきた。

しかし、例えば雇用問題のように、規制強化による雇用保障や最低賃金の引き上げが、かえって雇用の選別を強め、二極化を助長することになり、政策目標と逆の効果を招いてしまうということが、経済学的には明らかであるにもかかわらず、政策レベルではこうした誤ったことが実行されています。

この本を読んでいくと、社会的問題を分析し、解決策を模索していく上で、経済学がいかに有効であるかを改めて認識させられました。以下、気になった部分を引用します。

具体的には、十八歳から二十五歳の頃、つまり、高校や大学を卒業してしばらくの間に、不況を経験するかどうかが、その世代の価値観に大きな影響を与えるというのだ。この年齢層の頃に不況を経験した人は、「人生の成功は努力より運による」と思い、「政府による再分配を支持する」が、「公的な機関に対する信頼をもたない」、という傾向があるそうだ。 
非正規雇用者が増えることが、二つの問題をもたらす。第一に、「男の非正規」の増加による貧困問題である。第二に、非正規雇用者に対する訓練量が少ないことから発生する将来の日本の生産性の低下である。 
胎児の期間の栄養状態が悪いと、代謝のメカニズムがその環境に応じてプログラムされて生まれてくるというのがバーガー教授の主張だ。つまり、胎児期における栄養が少ないと、飢餓状態に耐えるために、体内に脂肪を蓄積しやすいように体質をプログラムするというのだ。ところが生まれてくると飢餓の世界ではなく、飽食の世界だ。飢餓に備えて作られた体質は、飽食の環境では、肥満に象徴されるメタボリック症候群をもたらしてしまう。 
実は、バローとマッキナリーという二人の研究者が、国際比較データを用いて、国による各宗派の比率の差や宗教的な価値観の差が経済成長に与える影響を分析している。この結果によれば、天国や地獄といった死後の世界の存在を信じる人の比率の高い国ほど経済成長率が高い一方、教会に熱心に行く人の比率の高い国ほど経済成長率が低いという。つまり、宗教的な価値観が人々の行動に影響を与え、生産性に影響している可能性があるのだ。 
所得格差の拡大の多くは、人口構成の高齢化で説明できる。しかし、生活水準の格差を示す消費の格差は五十歳以下の年齢層で拡大する傾向にある。(『日本の不平等』)。なぜ消費と所得で格差の推移に違いがでるのだろうか。消費を決定するのは現在の所得だけでなく、将来の所得と現在の資産も影響を与えるからだ。資産格差や将来の所得格差が拡大すると現在の消費の格差が拡大する。所得税の累進度の低下も可処分所得の格差を拡大させ、消費格差を拡大する要因になる。 
日本人は「選択や努力」以外の生まれつきの才能や学歴、運などの要因で所得格差が発生することを嫌うため、そのような理由で格差が発生したと感じると、実際のデータで格差が発生している以上に「格差感」を感じると考えられる。また、日本の経営者の所得がアメリカのように高額にならないのは「努力」を重視する社会きはんがあるためかもしれない。一方、学歴格差や才能による格差を容認し、機会均等を信じている人が多いアメリカでは、実際に所得格差が拡大していても「格差感」を抱かない。こうしたことが、日米における格差問題の受け止め方の違いの理由ではないだろうか。つまり、所得格差の決定要因のあるべき姿に関する価値観と実際の格差の決定要因戸に乖離が生じた時に、人々は格差感をもつのだろう。 
高齢者にとって、自分とは直接は関係ない教育費に支出されるよりも、年金や医療の充実をしてもらうほうがありがたい。教育水準の低下によって、将来の日本の生産性は大きく低下することになるが、多くの高齢者にとっては、そんな将来のことは関係ないかもしれない。しかし、それでは若者や将来世代は、たまったものではない。このような悪循環をどこかで止める必要がある。 
個別の規制強化は、より規制の弱い雇用形態への移転を生み出すだけで、絞り込まれた正社員は一向に増加しないのだ。パートへの規制が強化されれば派遣へ、派遣規制が強化されれば請負へ、請負への規制を強化すればヨーロッパで見られるような個人事業主との請負契約というかたちを模索するというように、抜け穴探しは永遠に続くことになる。機械への代替や労務コストの安い海外への移転を通じて雇用量そのものも減少していくだろう。 
最低賃金引き上げは、貧困解消手段として政治的にアピールしやすい。だがこの結果、一番被害を受けるおそれがあるのは、前述のとおりもっとも貧しい勤労者やこれから仕事に就こうとする若者・既婚女性だ。雇用者同士の賃金格差は縮小し、労働組合には、有効な格差是正策である。ただし、それは最低賃金の引き上げで職を失ったり、職を得られなかった人を排除した結果得られたものである。社会全体でみれば、最低賃金引き上げで職を失った人まで考えれば、格差はむしろ拡大することになる。


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